はじめに
先日、数多くのヘッドフォンを試聴したと言う記事を書きましたが、今回は吟味した(特に音質面で)末に選んだヘッドフォンのレビューをお届けしたいと思います。
結局、オーテクに行き着いた
もうタイトルでバレているとは思いますが、私が最終的に選んだヘッドフォンは Audio Technica の モニターヘッドフォン ATH-M50x です。ちなみにバッテリーの劣化や重量アップ等を嫌い、敢えて ATH-M50xBT2 にはしていません。

このヘッドフォンは全世界で150万本以上を売り上げた大人気モデルとの事で、海外では定番のモニターヘッドフォンとして君臨しているそうです。

と言う訳で、今回はこいつをレビューしたいと思います。
ATH-M50x 概要
同梱物について
同梱物は以下の通り。
・ヘッドフォン本体
・携帯用ポシェット
・3m 脱着ストレートコード
・1.2m(伸長時3m)脱着カールコード
・1.2m 脱着ストレートコード
・6.3mm ステレオ変換プラグアダプター
・取扱説明書類。

脱着カールコードと3m脱着ストレートコードには、プラグにネジが切ってあり、付属のねじ込み式の6.3mm ステレオ変換プラグアダプターが利用できます。(1.2mの脱着ストレートケーブルにはネジは切られていません)

プラグ類は全て金メッキ処理が施されています。
外観について
外装はプラスチック、ヘッドバンドの伸長部分はステンレス、ヘッドバンドは人工皮で覆われています。イヤーカップ外面にはシルバーのリングとその中にオーテクのロゴ。ヘッドバンドの伸縮は左右それぞれ11段階で、ステンレスの伸長部分にはラインが刻まれており、各段にクリック感があります。

ヘッドバンド部分には白文字で「audio-technica」のロゴと文字が入っており、頭に触れる面にはスポンジ素材が入っているので頭頂部への当たりはソフトです。

イヤーパッドは、弟分の ATH-M40x よりもソフトな素材が使用されており、耳当たりは比較的やさしいですが、低反発パッドはもっとソフトなので、やわらかさレベルで言うと並みでしょうか。

イヤーカップの角度調整の自由度はかなり高く、あらゆる方向に向ける事が出来ます。

自由度が高いので、イヤーカップを完全に反対側に向けて、どこぞの審査員みたいな片耳リスニングも出来ます。

ヘッドバンド脇の部分を折りたたんでコンパクトにする事も出来ます。

ちなみに上の2枚の写真は後撮りなので、ヘッドバンドカバーが装着してあるのと、側圧を緩める為にヘッドバンドを広げたので、イヤーパッド同士が少し離れています。(初期状態ではイヤーパッド同士はピッタリとくっつく)
コード類について
コードは脱着式で、同梱物一覧で列記した3種の脱着コードが標準で付属しています。(ATH-M40x は付属は2種で1.2m 脱着ストレートコードが付属していません)コード類は後から個別に購入できるので、断線してもコードだけ交換できるのは安心ですね。

イヤーカップとの脱着部分の接続プラグは 2.5mm径。再生機器との接続プラグは 3.5mm径。

脱着はコードの白いマークを下記写真の位置で差し込み、白いラインが1直線になるように右に少しねじるとロックされ、引っ張っても抜けなくなります。

コードのしなやかさは中程度と言ったところでしょうか。手持ちの ATH-AD500X のコードと比べると僅かにしなやかなように感じます。
非常に便利に感じたのはカールコードで、カールしている状態で 1.2m。引っ張ると最大 3m まで伸びます。ヘッドフォンを机上のオーディオインターフェイスに接続している状態では、邪魔にならない適度な長さでありながら、デスクから離れた時にはコードが伸びてくれるので、使い勝手が良いです。
またカール部分が始まるのがヘッドフォンから90cm先なので、机の前に座っている状態では重たいカール部分は机にのっているので、コードの重さを感じない設計になっているのもGOODです。
音質について
結論から先に言うと、レビューのチェックに時間をかけた事は勿論ですが、実際に試聴までして吟味しただけあって、満足度の高い音質です。この価格で買えるヘッドフォンとしては間違いなくトップレベルの音質だと思います。一番感じるのはドライバーの持つ再生帯域の広さとフラットさ、そしてドライバー自体の音色の良さ、入力に対する応答性のリニアさみたいなものですかね。
勿論、1つのスピーカーで全ての帯域をカバーしなければならないヘッドフォンで、フラットに近い周波数特性を実現するのは非常に難しい事だとは思いますが ATH-M50x は比較的乱れが少なく、よく調教してあると思います。
敢えて、細かい事を言わせてもらうと、ソースにもよりますが高域に関してはリスニング用途で使うには若干出過ぎな感はあります。シンバルが目立つのとサシスセソの語尾が少し耳障りに感じる時があります。(補足:とくにエージング前は強く感じました。)最初それがちょっと気になって、ATH-M50x の周波数特性グラフを調べると 10kHz~20kHz の範囲内に複数個の若干の盛り上がりがある事が判ったので、試しにその部分を押さえるつもりで、PCのイコライザー(Equalizer APO)で 10kHz~20kHz 付近を 2dB 程下げたら、全体のバランスがグッと良くりました。個人的には、これくらいの方が自然で聴き心地がいいですね。
あとついでに 300Hz 付近にも少し谷があったので、その部分を 2dB程 持ち上げ、さらに色付けでベースやバスドラのアタック感をもう少し出そうと 40~80Hz 付近を1~2dB 程持ち上げたら、迫力とと聴きやすさを兼ね備えたバランスの良いサウンドになりました。
ちなみに、以前から使用しているオープンエアーの ATH-AD500X でフラットに近づけるように周波数特性のグラフを参考にイコライザーで調整すると、かなり音のバランスを改善する事は出来ますが ATH-AD500X の周波数特性は 60Hz以下の低域が弱めなのと、1.5kHz から上の高域がかなり抑えめな感じなので、フラットな聴感にする為には特に高域を大幅に持ち上げ(4~5dB以上)ないとなりませんが、この事からも殆ど調整の必要が無い ATH-M50x が如何に素の状態でフラットに近いかが良く判ります。
ATH-M40x との比較
購入前に、最後まで選択で悩んだのが ATH-M40x です。ATH-M40x は音質に関しては、もう大多数の人が満足の行くレベルに達していると思います。もし ATH-M40x を購入していたとしても、恐らく満足はしていたと思います。ちなみに両者はドライバーサイズが異なりますので ATH-M50x の方が物理的により低い周波数までフラットに再生できているのは判るし、それが音に高級感のような雰囲気を与えている感じはします。
また「ATH-M50x は低音が多すぎ ATH-M40x の方がフラット」と言うレビューも見かけますが、周波数特性のグラフを見る限りでは ATH-M50x は ATH-M40x と比較して、より低い周波数までフラットに伸びているだけで、決して盛り上がってはないし、実際、聴感上でも下まで伸びているだけで低音多すぎには全く感じないですね。むしろ、前述のようにグライコで僅かに低音を持ち上げた位ですからね。
装着感について
次は、ATH-M50x の装着感について書きたいと思いますが、私の実体験として言わせてもらうと、初期状態の ATH-M50x の装着感はお世辞にも良いとは言えません。装着感を左右する要素としては「側圧」と「イヤーパッド」が2大要素ですが、初期状態の ATH-M50x は共に問題があります。
ですが、共に大幅に改善する事は可能ですので、改善前の状態と問題点、そして具体的な改善方法とその効果についてご紹介したいと思います。
側圧について
側圧に関しては、初期状態はオーテクらしくかなり強いです。一般的に高価なヘッドフォンになる程、ドライバーの大径化やマグネットの大型化などで重量が増える傾向がありますので、それを支える為に、側圧を強くせざるおえないのかもしれませんが、イヤーパッドによって耳が若干変形させられている状態で、さらにこの強力な側圧は、正直私には耐えられないです。

ただヘッドバンド部分を無理やり広げて緩くしてやる事で、かなり側圧を軽減する事は来ます。勿論、側圧を緩めると俯いたりした時にヘッドフォンが脱落しやすくなりますが、私にとっては耳の痛みの方が遥かに問題ですので、ヘッドバンド部を指で曲げたり、ヘッドフォンをパッケージの箱に挟んだりして、躊躇なくガンガン緩めています。その結果、後術するイヤーパッドの改善との相乗効果で、今では長時間装着しても、殆ど痛みを感じなくなりました。
ヘッドバンドを広げる際は、ヘッドバンドの変形可能な部分(Audio-Technicaの文字のある付近)以外に余り強い力をかけないように注意して下さい。変形出来ない部分に強い力がかかるとヘッドフォンが破損する可能性があります。
イヤーパッドについて
純正イヤーパッドの問題点
ATH-M50x の純正イヤーパッドは ATH-M40x よりもソフトな素材が使われており、柔らかさに関しては問題無いと思いますが、最大の問題はイヤーホールの大きさ(高さ)です。
イヤーパッドの外寸(高さ)は、約10cm程。ちなみに ATH-AD500X は約11cm程。

そして装着感にとって最も重要なイヤーカップの内寸(高さ)は約5.4cm程ですが、私の耳には明らかに高さが不足していて、耳たぶを派手に折り曲げるか、耳たぶの上にイヤーパッドをのせる必要があり、耳の変形や充血により比較的早期に不快感が出てしまいます。

ただ、以前に購入した、似たようなサイズのイヤーパッドを持つ dyplay の「UrbanTraveller 2.0」では、イヤーパッドの装着感に関して概ね不満が無く、この違いは何なのかと、それぞれのイヤーパッド内寸を計測すると

ATH-M50x 高さ5.4cm 幅4cm 深さ1cm
UrbanTraveller 2.0 高さ5.8cm 幅3.5cm 深さ 1.5cm
つまり、高さが 4mm 深さが 5mm 少ない訳です。両ヘッドフォンの重量は殆ど同じで、敢えて言うなら UrbanTraveller 2.0 のイヤーパッドはよりソフトな低反発素材が使われている上、奥側がメッシュ素材になっているのが快適さに寄与している可能性がある事くらいでしょうか。
UrbanTraveller 2.0 でも耳たぶは若干折り曲げてイヤーホールに収めているので、耳たぶを折り曲げている事には変わりはないのですが、耳たぶ付近には軟骨が無く、折り曲げに対してある程度許容性があるのですが、耳の上部に行く程、軟骨が入って来るので、折り曲げに対する許容性が無くなって痛みが出やすくなります。つまり、この高さ4mm 奥行5mm が足りない分、折り曲げ範囲が軟骨部分に及んでしまったり、折り曲げ角度が急になってしまったり、耳たぶを収める空間が足りなかったりしているのだと思われます。
ちなみに、耳たぶをイヤーホールに収めるのを諦め、耳たぶの上にイヤーパッドを乗せる装着方法だと、ヘッドバンドの側圧をかなり緩めておけば、暫くは耐えられますが、耳たぶが圧迫されている事に変わりはないので血流が悪化して、結局は不快感に耐えられなくなります。
イヤーパッド問題の解決策
と言う訳で、私の結論的には純正イヤーパッドでは、長時間使用には耐えられないと判断、イヤーパッドを素材やサイズの異なるサードパーティー製のものへ交換する事にしました。
今回、私が試してみたのは「Geekria」製の互換イヤーパッドです。このイヤーパッドは ATH-M50X, ATH-M50xBT2, ATH-M40X, ATH-M30X, ATH-M20X, ATH-M10 に対応するとの事です。

同梱物はイヤーパッド本体(2個)、インナーパッド(2個)、交換用のレバーです。表皮素材はベロア生地で通気性と触感が非常に優れています。
Geekriaのイヤーパッドには、幾つかのカラーバリエーションがありますが、色によって表面素材が異なりますのでご注意下さい。
ちなみに付属のレバーを使わなくても簡単に装着できました。装着にはコツがいるのですが、慣れると片側1分もかからず装着出来ます。イヤーホールの中から指を入れてベロをひっかけて行くのがコツです。

純正イヤーパッドと比較するとこんな感じです。イヤーホールの縦サイズが明らかに違いますね。

裏面はこんな感じ。

サイズですが、外径(縦)は約11cmと純正より1cm大きいです。

そして肝心の内径(縦)は約6.4cmと純正より1cmも大きいです。

横からみると、こんな感じ。縦が明らかに長いですね。

そして横幅は純正と殆ど同じサイズです。

それでは装着と行きたいところですが、中敷きのパッドが付属していますが、これはイヤーパッドのガタツキを防止したり、音のバランスを整えたり、耳がドライバーに触れた際の触感の改善、などの役割が想定されますので、入れた方が良いとは思います。実際に中敷き有りと無しで試聴してみましたが、ATH-M50xの場合は、全体の音のバランス的に「中敷き有り」の方が良いように私は感じました。より高音域を強く綺麗に感じたい方は、無しと言う選択肢もありかとは思いますが、高音が強くなり過ぎて、若干ベースやバスドラが物足りなく感じてしまうかもしれません。
後日購入したATH-M40xでも同じGeekriaのイヤーパッドを装着しましたが、ATH-M50xに比べて、高音が控えめなATH-M40xでは明らかに「中敷き無し」の方がバランスが良かったです。装着する機種の素の特性に応じて中敷き有り無しは切り替えた方が良い結果が出るようですね。

ちなみに装着する際は、下の写真のように中敷きパッドを先にイヤーパッドの裏面のベロの中へ入れてからドライバーに装着するとやり易いです。

下記は片側だけ Geekria製に交換した写真です。明らかに大きさも厚みも違いますね。厚み(深さ)は純正の約1.5倍程あります。

前から比較するとこんな感じ。

両側とも交換するとこんな感じ。さすが ATH-M??シリーズ専用に設計されているだけあってドライバとのフィット感は完璧で、汎用品にみられるような遊びなどは全くありません。

そして肝心の装着感ですが、純正とは比較にならないくらい快適です。全く別物のヘッドフォンになったようです。まず内径の高さや深さに余裕があるので、耳が全く虐められません。耳がほぼ無変形で存在できます。そして、さらに快適性に寄与してくれたのがベロア生地です。純正の人工皮は、通気性が殆どないので簡単に蒸れますし、汗ばんで不快な状態になり易いですが、ベロア生地は蒸れずにずっとさらっとしていて快適です。

なお、イヤーパッド自体の厚みがGeekria製の方があるので、その分側圧が上がる感じはありますので、その分ヘッドバンドも広げて緩くしてやる必要はあると思いますが、そもそも圧が耳自体に全く、かから無くなりますので、耳の周囲が充血しない程度まで緩めればOKです。
あとイヤーパッドを変更した事による音質への影響ですが「密閉型なので低音が減ったり、それなりに変化はあるかもしれないけど、気になったらイコライザーで調整すればいいかな」くらいに思っていたのですが、驚く事に殆ど変化がありませんでした。
特に高音と低音のバランスに関しては、純正と変わらぬバランスで聴かせてくれます。正直これにはびっくりしました。ドライバーと耳との距離も若干(5mm程)変わっている筈ですが、この点もついても特に違和感などは感じませんでした。
ヘッドバンド表皮の劣化対策
ATH-M??x シリーズのイヤーカップとヘッドバンドの人工表皮は、数年でボロボロになるようです。汗の量や普段のメンテナンス、使用時間などによってボロボロになるまでの年数は異なって来るとは思いますが、多くの方が数年でボロボロになる事をレビューで語っています。
イヤーカップに関しては、純正でもサードパーティ製でも、好きなものを購入できるので交換対応出来ますが、ヘッドバンド部分の表皮に関しては交換が出来ない(自力でカット&裁縫した表皮に交換している強者もいらっしゃるようですが)ので、ボロボロにしなくない人は、最初からヘッドバンドカバーを装着しておいた方が良いと思います。
私は Amazon で適当に検索して出て来た中華製(ブランド名:LTYIVABHTTW)の ATH-M50x 対応のヘッドバンドカバー(999円)を購入し装着しました。

チャックのジッパー部分をクルッとひっくり返して装着します。

ヘッドバンドカバーを装着すると、下の写真のようになります。

ヘッドバンドカバーを取り付けると、若干重心が高くなる感じがありますが、それ以外は、特に違和感はありません。触り心地もいいです。

写真は側圧軽減の為に、既にヘッドバンドを広げた後のものですので、イヤーカップ同士が少し離れています。今はさらにゆるめてもっと開いています。
ちなみに、私の購入したこの中華製のヘッドバンドカバーは裁縫手順を間違えているようで、末端の淵止め素材の上にジッパーが縫い付けられており、ジッパーの末端の部分の処理がちょっと変な感じなんですが、面倒なので返品せずそのまま使っています。ただ、こいつの良い点は、頭頂部接触面が比較的シワになり難い点でしょうか。他のメーカーでは大きめなシワが出来てデコボコが気になると言うレビューも見かけますので、どっちを取るかですかね。

後日、ATH-M40xを購入した際に同じヘッドフォンカバーを購入したところ、ジッパーの末端処理は修正されていました。ただ、張力により開きやすくなっている為、どっちもどっちですね。(笑)
最後に
と言う訳で ATH-M50x と言うヘッドフォンは、音質面では間違いなくクラス最高レベルですが、装着感については改善の余地があると思います。ただイヤーパッド交換など、多少手を入れてやるだけで、欠点が消えて、一気にパーフェクトヘッドフォンに化けます。
また、世界的に数が売れているメジャーなヘッドフォンなので、純正は勿論の事、サードパーティ製のイヤーパッドやケーブルなども充実しており、パーツの入手性やカスタムの自由度も高いので、末永く付き合える製品かと思います。





下記のHyperX Cloud/Alpha/Stinger/Revoilver S等、向けのイヤーパッドがaudio-technica ATH-M50Xにそのまま装着出来ます。型崩れし辛くゴミも付着しにくいので、これも結構お勧めです。

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